最近読み終えた本。『キルヒャーの世界図鑑』


 最近読み終えた本。『キルヒャーの世界図鑑』

澁澤龍彦氏の本によく挿入図として使われている
このアタナシウス・キルヒャーという人の絵、とっても好きだなあ…とずっと思っていた。
キルヒャーが絵描きだと思っていたくらいよく知らないまま、この本を手にとる。

キルヒャーは絵描きではなく、17世紀に活躍したイエズス会の神父。
宗教と魔術が混沌とした中世ヨーロッパ、ましてや神父として
唯一神、聖書に疑問すらもってはいけない世界に身を置きながらも
続々と発見され始めたヨーロッパの外の国・文化•異教や
聖書で説明のつかない科学的自然事象を目の前に
好奇心旺盛のキルヒャー神父はさまざま情報をかき集め、自ら探検へ出向き
そこから考察(聖書が間違っていないことを証明するために。少なくとも表向きは。)
(妄想も大いに含む!)した持論を
素晴らしく美しい緻密な絵で説明しながら本にまとめていった、という人だった。

現代からみたら、ちょっと笑ってしまうくらい奇想天外な発想や空想が盛り込まれていて
それがものすごい熱量と画力で大真面目に語られ描かれているところは楽しいのだけど、
我々はただ「考えるより先に情報が与えられている」というだけで
まだ未知だった世界を自ら発見し、背景を発想し発信し続ける情熱はすごい。
たとえそれが間違っていても。

未知を想像力で補完したことで、大真面目な美麗な絵が
「どこにも存在しない奇妙なもの」となっていることも、心くすぐられる。
宗教と魔術と美術と科学がこんがらがって、溶けて渦巻いている。

もしこの時代、この世界に生きていたら、どんなふうに世界をとらえていたのだろうと
それはとても恐ろしく不安で、一方心の底からワクワクすることなのかもしれないと
想像する。

装丁も凝っていて、この不思議世界をより味わい深くしているな、と思ったら
祖父江慎さんの手がけたものだった。

コメント

人気の投稿